こんにちは。
「あなたの法務部」管理人の中川です。
今回は、「指揮命令」とは何かについて解説します。
「指揮命令」とは、偽装請負の問題、労働者派遣法違反、職業安定法違反、労働基準法違反等の問題を理解する上でも、とても大切です。
また、「労働者」とは何か、や、「業務請負」「業務委託」と「雇用」の違いはどこにあるのか、という問題でも重要なポイントとなる法律的な概念です。
そんな「指揮命令」について見ていきましょう。
指揮命令とは
指揮命令とは、端的に言うと、「使用者が労働者に対して指揮監督し命令できる権利」です。
ということは、自らの労働者でないものに指揮命令をすることは、原則としてできません。
原則と書いたのは、例外もあるからです。
例外としては、労働者派遣事業では、派遣先企業が、派遣元企業の従業員に指揮命令することができます。
ただし、労働者派遣を行う場合は、労働者派遣事業の許可を得る必要があり、許可を得ずに行うと、労働者派遣業法違反となります。
例外はあるものの、原則としては、自らの雇用者のみに指揮監督し命令できるのが指揮命令です。
労働者側の立場から言うと、支配従属関係にあり、自身に指揮命令をすることができるのは、自らを雇用している雇用主のみということになります。
ですので、労働者派遣事業に該当しない場合なのに、自らの雇用者ではない者に対して指揮命令が行える状態というのは、労働基準法違反、労働者派遣法違反、職業安定法違反に該当する可能性が極めて高くなります。
また、偽装請負として判断される可能性も高くなります。
なぜ、指揮命令が重要なのか
指揮命令は、誰が雇用者なのかを明確に区別するために必要とされています。
雇用者は、自らの労働者の安全衛生の確保、労働時間等を管理する必要があります。
誰が雇用者なのかがあいまいになれば、その責任もあいまいになってしまいます。
また、次のような場合の問題点があります。
労働者派遣事業と請負の混同
労働者派遣事業と請負は、非常に似た形になりやすい問題があります。
実際は、労働者派遣事業となっているのに契約上は請負契約となっている場合が多くあります。
このようなとき、労働者の安全衛生の確保や労働時間等の管理の責任を負う存在があいまいになりがちです。
また、労災認定の問題も起こります。
災害が生じた場合の労災等の認定でもめることはよくあります。
偽装請負の問題
偽装請負とは、請負労働者に対して指揮命令を行うことで発生する問題です。
ですが、それ以外にも、請負契約や業務委託契約、委任契約と雇用契約の違いも生じてきます。
実際は、労働者としての雇用契約のはずが、業務委託契約として締結しているという問題もあります。
業務委託契約では、契約によって業務を委託する形ですので、本来なら指揮命令をすることはできません。
ですが、状態として指揮命令されているのであれば、雇用契約とみなされる可能性が高くなります。
指揮命令は、雇用者が雇用者としての責任を明確にするために重要なのです。
どのような状態が指揮命令に該当するのか
では、具体的にどのような行為が指揮命令に該当するのでしょうか。
指揮命令は、原則として自らの労働者に対してすることができる権利です。
指揮命令が問題になるのは、この「労働者」に該当するかどうか、という部分です。
ですので、労働者ではないと言えるためには、指揮命令をしていない状態である必要があります。
独立事業主となっているのか
指揮命令をできるのは、原則として自ら雇用した労働者のみです。
ということは、指揮命令をしている場合は、自らの労働者に該当する可能性が高いといえますし、指揮命令していないのなら、労働者に該当しないといえます。
そのために重要なのは、独立事業主となっているか、という部分です。
独立事業主は、自らの意思で仕事を請け、自らの采配で仕事を遂行します。
たとえば、仕事をする上での機材の手配、材料の用意は自らがします。
事業に必要な資金は自らが調達します。
仕事をする開始時間、終了時間、休憩や休日を自らで采配し管理します。
どのような順番で仕事をするかの決定変更を自ら行います。
その上で、相手の会社から仕事を請け負います。
この状態が整っているのであれば、一独立事業主と言えますし、相手に指揮命令を受けている状態とはいえません。
これに対し、上にあげたような例を相手の会社から受けている場合、それは指揮命令されている状態といえます。
たとえば、機材や手配、材料の用意がすべてなされていて、自ら資金を用意する必要がない状態。
仕事をする上での、始業・終業時刻、休憩時間の指示を受けている状態。
業務上の指示、配分、決定、変更等を常に受けている状態。
これらの状態になっていればいるほど、指揮命令を受けている状態といえますし、雇用関係に近い状態といえます。
肉体一つで仕事ができる状態に近ければ近いほど、雇用関係に近いと言えますし、逆に自ら資金を用意し、機材や部品、設備投資をした上で仕事を請けているのであれば、雇用関係にあるとは言えません。
たとえ、契約内容が請負契約、業務委託契約、委任契約などの名目になっていても、指揮命令を受けていると判断される状態であれば、雇用状態にあるといえます。
ちなみに、このような状態を偽装請負と言うのですが、偽装請負と指揮命令関係を解釈する上では、請負や委託、委任などの区別はあまり重要ではありません。
法律上は、請負と委任は区別されているのですが、偽装請負と指揮命令関係を区別する上では、どちらも同じようなものと捉えて問題ないでしょう。
たとえば、こんな具体例
では、ここで一例をあげますので、参考にしてみてください。
たとえば、ホームページを制作するという仕事があったとします。
あなたが発注者で、誰かにホームページの制作を頼みたいと思ったとします。
まず、最初に考え付くのは、ホームページ制作会社に依頼することです。
この場合、仕事の発注は通常、業務委託契約です。
ホームページ制作会社に業務委託契約として、ホームページの制作を依頼しました。
納期は2週間と契約で取り決めます。
もちろん制作にあたっての協力は必要でしょう。
ホームページに書く文章を用意したり、写真を用意したりする必要があるかもしれません。
ですが、通常相手の仕事の采配や配分に対し、細かく指示することはありません。
たとえば「デザイン担当はAさん、システム設計はBさんにしてください」と依頼することはまれです。
これらはホームページ制作会社が配分するものです。
また「Aさんは何時から何時まで働いてください、Bさんの休憩時間は何時から何時までとってください」と指示することも通常ありえません。
これらのホームページ制作会社が自らの指示で自身の従業員に対して行うものです。
ホームページ制作を依頼する際に、ホームページ制作にかかる機材を購入する必要もありません。
通常は制作会社がそれらの機材や設備を要しているからです。
もちろん、支払う金額には、それらの機材や設備の一部も反映されてはいるでしょうが、依頼する側が設備を用意する必要はありません。
こうして納期にホームページが出来上がります。
通常の業務委託契約とはこのような形です。
たとえば、同じようにホームページ制作を考えたときに、自社内で作ろうと考えます。
ですが、人件費の問題もあり、自社内で作るけれど、業務委託契約にしたいと思ったとします。
ちょうどいい人が見つかったので、その方に依頼することにしました。
契約は業務委託契約です。
作業は自社内で行ってもらうことにします。
機材や設備は自社内のものを使用してもらいます。
座席も確保しました。
始業時刻と終業時刻を決め、休憩時間も決めました。
段取りについても逐一指示します。
そうして2週間後、ホームページが完成しました。
この場合、働いている人は、肉体一つを持って業務していることになり、一独立事業主とは言い難い面があります。
こういった関係を雇用関係といい、もしこれを業務委託契約で行っている場合、偽装請負と判断される可能性が極めて高くなるのです。
法が定める基準
指揮命令という言葉は、労働者派遣法や職業安定法という法律に記載される法律用語ですが、職業安定法では、指揮命令がない状態はどのような状態かを定義しています。
また、厚生労働省のガイドラインでも、指揮命令を受けていない状態についての考え方の基準を示しています。
それぞれどのような状態なのか見ていきましょう。
職業安定法が定める基準
職業安定法では、「指揮命令を受けていない」といえる状態について、具体例を示しています。
次のすべてに該当する場合を除いて、支配従属関係にある場合は、指揮命令を受けて労働しているものとみなされます。
- 作業の完成について、事業主としての財政上・法律上の全ての責任を負っていること
- 作業に従事する労働者を、指揮監督していること
- 作業に従事する労働者に対して、使用者として法律に規定された全ての義務を負っていること
- 次の3つを自ら行い、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
- 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く)、を使用していること
- 自ら提供する作業に必要な材料、資材を使用していること
- 自ら企画し、または専門的な技術や専門的な経験を必要とする作業を行うものであること、
これらすべてに該当する場合に、指揮命令を受けていないと言えるとしています。
ですので、たとえ名目上、請負契約となっていたとしても、上記に該当しない場合は、指揮命令を受けている状態と言え、請負契約ではないと判断されます。
職業安定法施行規則
(法第四条に関する事項)
第四条 労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第三号に規定する労働者派遣事業を行う者を除く。)は、たとえその契約の形式が請負契約であつても、次の各号の全てに該当する場合を除き、法第四条第七項の規定による労働者供給の事業を行う者とする。
一 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上の全ての責任を負うものであること。
二 作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること。
三 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定された全ての義務を負うものであること。
四 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
2 前項の各号の全てに該当する場合(労働者派遣法第二条第三号に規定する労働者派遣事業を行う場合を除く。)であつても、それが法第四十四条の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が労働力の供給にあるときは、法第四条第七項の規定による労働者供給の事業を行う者であることを免れることができない。
職業安定法施行規則
厚生労働省が定めるガイドライン
次に厚生労働省のガイドラインでは、労働者派遣事業と請負の区分について、次の基準を明確化しています。
次のすべてに該当しない場合は、請負ではなく労働者派遣事業となります。
1 次の①から③のいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
①次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
- 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
- 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
②次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
- 労働者の始業及び終業の時刻、 休憩時間、 休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
- 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
③次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
- 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
- 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
2 次の①から③のいずれにも該当することにより請負契約により請け負つた業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
①業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
②業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
③次のいずれかに該当するものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
- 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易
- な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
- 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理
- すること。
また、法の規定を免れるため故意に偽装した場合でも、その事業の真の目的が労働者派遣事業行うものであるときには、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることができない、ともされています。
労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和 61 年労働省告示第 37 号)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000046903.pdf
判例
さて、最後に労働者とは何かということについての有名な判例を見てみましょう。
この裁判は、映画撮影のカメラマンの死亡について、遺族が労働者災害補償保険法の遺族補償給付の支給を請求したところ、カメラマンが労働基準法の「労働者」に該当するのかどうかで争われた事案です。
判決では、労働者に該当するかどうかは、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断すべきものとし、使用従属関係の判断に際しては、それぞれの労働の従事の仕方に応じて個別に判断すべきであり、次のような事情を総合的に考慮して判断すべきとしています。
- 仕事の依頼に対する諾否の自由があるか
- 業務遂行上の指揮監督関係の存否
- 時間的・場所的拘束性の有無
- 労務提供の代替性の有無
- 報酬の性格や額
- 業務用機材等、機械・器具の負担関係
- 専属性の程度
- 服務規律の適用の有無
- 公訴などの負担関係
まとめ
今回は、指揮命令について解説してきました。
指揮命令は、使用者が自らの労働者に対して、することのできる権利であり、労働者でないものに対してすることはできません。
労働者でないものに指揮命令すると、労働基準法違反、職業安定法違反、労働者派遣法違反に該当する可能性が出てきます。
また、偽装請負の問題も生じてきます。
指揮命令は、判断基準が複雑ですが、ビジネスをする上では、正しく理解しておくことが必要な知識でもあります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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